はじまり:「zukan」という夢
8年前、東京のスタートアップで働いていた頃。
誰でも使える生物観察・解説プラットフォーム——「zukan」の構想が頭にありました。
図鑑のように美しくて、SNSのように気軽で、研究者にとっても価値のあるもの。
でも当時は技術も資金もなく、その夢はノートの端に留まったまま、
時間だけが過ぎていきました。
転機:浜松への移住
4年前、浜松に移住しました。
天竜川の河畔林、佐鳴湖の水鳥、三方原台地の里山——
東京では意識すらしなかった自然が、ここでは日常のすぐそばにあった。
朝の散歩で聞こえるウグイスの声、庭に飛んできたアゲハチョウ。
小さな発見の連続が、ノートの端のあの夢を呼び覚ましました。
地方の現実と、浜松の挑戦
暮らしていくうちに、地方が抱える課題も見えてきました。 人口減少と高齢化が進む中、自然環境の記録を担う人材がいない。 「何がどこにいるのか」すら分からないまま、開発計画が進んでいく。
一方で、浜松市は面白い挑戦をしていました。
浜松ウエルネス推進協議会は、
「予防・健幸都市」を掲げ、市民の健康と産業振興を同時に進めようとしている。
生物多様性はままつ戦略2024では、
ネイチャーポジティブや30by30目標という国際的な枠組みを地域に落とし込もうとしていた。
市は未来を向いている。でも、それを支えるデータ基盤が足りない。
確信:愛管での経験
決定的だったのは、愛管株式会社で自然共生サイトの 申請・認定に関わった経験です。 企業が「自社の敷地で生物多様性を守っている」ことを証明するには、 過去から現在までの観察データが不可欠。でも、そのデータがどこにもない。
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の流れが加速し、 企業は自然資本の開示を求められ始めている。 自治体も生物多様性地域戦略を進めなければならない。 なのに、データを集める仕組みが存在しない。
「このサービスは、今すぐ必要だ」—— そう確信した瞬間、8年前のノートを引っ張り出しました。
ikimon:急いで作った理由
zukanという夢を、ikimonという形にしました。
美しい図鑑ではなく、まず「使える」ものを。
完璧を目指すのではなく、今日からデータが溜まり始めるものを。
市民の「見つけた!」を科学的データに変え、
企業の自然共生サイト申請にも、自治体の生物多様性戦略にも使えるものを。
デザインも、コードも、データベース設計も、全部ひとりで。
浜松の自室から。急いで作りました。
完璧じゃないことは分かっています。
でも、自然は待ってくれない。
毎日どこかで生態系が変わり、記録されないまま失われていく。
だから、動き出すことにしました。
「8年間温めた構想を、浜松の自然が目覚めさせた。
完璧を待たない。自然は待ってくれないから。」
少しずつ、認めてもらえるように
ありがたいことに、この取り組みは少しずつ評価をいただいています。
浜松市のスタートアップ支援プログラム「HSI」に採択され、
静岡県SDGsビジネスアワードでも賞をいただきました。
ひとりで始めたプロジェクトが、地域の文脈の中で意味を持ち始めている。
それが、何よりの励みです。
ビジョン:自然と共に生きる社会へ
2030年までに、浜松のすべての小中学校でikimonが使われ、 子どもたちが自分の街の自然を知る世界を作りたい。 その経験が大人になっても続き、 自然を守ることが当たり前の社会を実現することが目標です。
散歩をすることが健康になり、観察をすることがデータになり、 データが企業と自治体の意思決定を変えていく。 ウェルネスと生物多様性が一本の線でつながる—— 浜松からその実験を始めます。